言葉の壁を超えて意味を伝えることができる“矢印のデザイン”を、平常時も楽しめるアート作品として区内の必要な場所に設置することで、国内外の来街者に一時退避場所の場所を認知してもらい、発災時の誘導を支援する取り組みです。
アニメーションのように、矢印をインプットできたらいいなと
「河村くんとは、プライベートでも親交があってメンタル面も共通してる部分があるから、今回のコラボも迷いはありませんでした。一応、壁面を2人でやると決めましたけど、エリアを分けるのではなく、いつの間にか僕の作品から河村くんの作品に……それこそ、DJが曲をミックスするような感じで移っていく。そんなイメージが暗黙のうちにできていました」

そうして完成した作品は前述した通り、かわいい動物や花たちが登場します。伊藤さんが作る広告やグラフィックの作品を知る人にとっては、少し意外なタッチかもしれません。しかし、それにも理由があるようです。
「緊急時にパニックにさせないで誘導するために、この矢印の先にある『安全な場所』のニュアンスを動物モチーフに込めました。動物は災害を察知して人間より先に避難することがよくありますよね。
さらに視認性という意味では、ミニマルなコミュニケーションも重視しました。だから矢印も動物も線画にして……。実は、日頃のコラージュ作品とは別で描いているシリーズがあるんですよ。雑誌『MilK MAGAZINE』や、子どものための塗り絵なんですけど、昔からそうやって描いてきた動物たちに、今回一緒に参加してもらったという感じでしょうか(笑)」
伊藤さんの知る人ぞ知る一面が表に出た壁画ですが、街中にある壁という特性を捉えた緻密な計算も、しっかりと反映されているようです。
「壁画というメディアに落とし込むと考えたら、描くべきなのは額縁に入れるような絵ではないな、と最初に思いました。空間も取り込んで一体化できる作品が必要かなと。それで矢印の長さも結構考えたんですよ。端から端まで1本の矢印だと意味をなさないし、短すぎても忙しない。何度も歩いて、歩幅と目で追った時のリズム感を確認しました。アニメーションのように、矢印をインプットできたらいいなと思って。そこから個数やサイズをなんとなく決め、バランスを押さえるところから描き始めました」
実際にJR高架下を歩けば、伊藤さんが伝えたかったことがわかるはず。“矢印”が心地よく視界に入り、きっと自然とその方向へ足を進めたくなります。
